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詩の写メ日記

  • 短編官能小説【恋は月の陰に】1話/全4話
    短編官能小説【恋は月の陰に】1話/全4話

    深夜2時を過ぎていた。



    「真面目な恋がしたいあなたへ」という文言が耳に入り目が覚めてしまった。後ろへ寝返りを打つと、液晶が光ったままのスマホを枕横に置いてスヤスヤと寝息をたてる夫の背中がある。

    なんだ、またYouTubeの広告か、と思い、さっきまで見ていた夢のなかへ戻ろうとするがどうしてか入り口が塞がってしまったようだ。



    入眠できない。





    夫がYouTubeを観ながら寝落ちをするようになったのはここ半年のことだ。観るならリビングで観てくれと頼んでも私の就寝を確認すると寝室に入ってきて同じベッドの上で見始める。

    せめてもの気遣いのつもりなのか音を下げて観ているようだが、広告に入ると急に無駄にデカい音声が流れる。実際今までもそれで目が覚めることがあった。あれはなんなんだ。





    ゲーム好きの夫のYouTubeに流れる広告はだいたいいつもスマホゲームのもので、ずいぶんうまくGoogleは人の趣味嗜好をパーソナライズしてるものだと感心すらしていたが、さっき聞こえた文言はスマホゲームの広告にしてはあまりにも夫の趣味からは遠いものに思えた。





    結婚して15年も経過し、中学生の娘もいる私には「恋」という単語はずいぶんメルヘンな印象になっていた。思えば「真面目な恋」とはなんだったろうか。短大を出て企業に勤め同じ職場内で10個上の今の夫と出会い、気付けば結婚をして娘が生まれていた。「20代前半で結婚ができないのは人格か家庭環境に問題がある」という価値観だった古き悪き時代に、真面目だ不真面目だとか恋について思案する余裕はなかった。





    「真面目な恋がしたいあなたへ」

    夫のスマホから聞こえたその文言は私の中で何度も反芻され一つの不審を生んだ。

    おそらくマッチングアプリであろう広告が突然夫のスマホに流れてきたということは夫はすでに私の知らないところでそういう色事に興味を持ち色んな場所で検索なぞしている可能性がある。



    もう女とも繋がってるかもしれない。









    真実がどうであれ、もう5年以上冷め切っているこの関係に今更期待などしていないし、外で女をつくっていようと、それをあれこれ問い詰めるほど今の夫にはもはや思い入れもない。





    眠る夫に背を向けたまま一瞥もせずに、私はベランダに出た。久方ぶりに聞いた「恋」という言葉が、私の前に一本の魅惑めいた細糸をゆらゆらと垂らしている。何だろうこれは。それを掴むことを邪魔するものは、今の私にはない。

    夜空には煌々とした月が浮かび、私に微笑んでいるように見えた。











    1話