第7話:背中合わせの温もり
「あれ?最近、レンの夢を見なくなったな」
ふとした瞬間にそう思った。
それは、意図的に何かを忘れたわけでも
無理に思い出を消したわけでもなかった。
静かに、自然に心が新しい方へと動いていた。
リョウとの日々は特別な出来事の連続というわけじゃない。
でも、ひとつひとつのやり取りが、心の奥の柔らかい場所に静かに降り積もっていく。
「今日もお疲れさま。ちゃんとご飯食べた?」
「うん。そっちは?」
「俺はカレー。やたら辛いやつ」
そんな他愛もない会話。
だけど、そんなやりとりが、まるで心のバイタルサインのように、みゆに安心をくれる。
会っていない時間も繋がっている
そう思わせてくれるのは、レンではなかった。
そして、また逢瀬の夜。
「今日は、強めがいい?それとも、ゆっくり?」
リョウの問いかけに、みゆは静かに微笑んだ。
「•••ゆっくり、でお願い」
時間をかけて触れ合う施術。
指先から、呼吸から、彼の想いが伝わってくる。
いつからだろう。
『抱かれること』が目的じゃなくなっていたのは。
身体の奥で何度も波が崩れていく。
でも、それ以上に心が満たされていく。
「リョウ」
名前を呼んだ瞬間、涙が溢れていた。
それは、過去への別れでもあり
自分を赦すための涙だった。
施術のあと、彼の胸のなかで少しだけ甘える。
背中をトントンとされるたびに、少しずつ強くなれる気がした。
「リョウくんに会ってなかったら、きっと私は•••」
その先の言葉は飲み込んだ。
それでも彼は全部わかってくれている気がしたから。
幸せって、誰かを独占することじゃない。
誰かと、素直なままで居られることなんだ。
そう思えた今、みゆの恋はやっと新しい温度を持ちはじめた。
夜が明ける。
静かで穏やかな、でも確かな始まりの予感を連れて。
みゆうの写メ日記
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【抱かれても、抱きしめられない】連続女風小説7/7みゆう