第5話:名前で呼ばれた夜
「•••力、抜いて」
そう囁かれた瞬間
まるで身体の境界線がふっと溶けていくようだった。
リョウの手が、私の背中をなぞる。
ただの【触れる】ではなく
まるで『記憶に焼きつける』ような
そんな温度で。
「気持ちいい?」
そう聞かれて、うなずいたのか、声が漏れたのか、自分でも曖昧だった。
肩から腰、脚の付け根へ。
どこに触れられても、体が勝手に反応してしまう。
思考がついていかない。
呼吸が浅くなって
喉の奥で、熱が鳴る。
「•••みゆ」
名前を呼ばれた瞬間
張りつめていた何かが、ぷつんと音を立てて切れた。
それは、心を溶かす合図だった。
呼ばれるたびに
私が私であることを肯定されていくようで
涙が出そうになる。
指先が、唇が、喉元が
やさしく、でも逃さないように触れてくる。
くちびるが重なったとき
レンとの記憶が、一瞬だけ頭をかすめた。
でも、その影はすぐにリョウの熱で上書きされた。
もう、わかってしまった。
私はいま
誰かを忘れようとしてるんじゃない。
誰かに
「思い出されたい」と願っているんだ。
彼の指が、私の一番奥に届いたとき
声が漏れた。
何度も、何度も。
快感の波にのまれていくたび
私は少しずつ壊れていく。
だけど、壊されることが
こんなにも救いになるなんて、知らなかった。
リョウの瞳が、
まっすぐに私を見つめていた。
「いい子だね」
その一言で、私はまた果てた。
施術なんて言葉じゃ足りない。
これはもう
心を抱かれる行為だった。
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この夜から、
レンの影は少しずつ薄れていった。
忘れようとしたんじゃない。
ただ、
『感じすぎてしまった』だけ。
それだけだった。
みゆうの写メ日記
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【抱かれても、抱きしめられない】連続女風小説5/7みゆう