第2話:乾いた甘さ
「レン、今日もありがとう」
私の言葉に、彼は変わらず穏やかな笑顔で頷いた。
まるで何も変わっていないような優しい表情。
だけど私の中では、少しずつ違和感が育っていた。
初めて会ったあの日の熱は、今でも鮮明に覚えている。
でも今はもう、週に一度のDMに短い返信が来るだけ。
絵文字もなく、名前も呼ばれない。
まるでそこに「私」は存在していないような、無機質な言葉。
それでも、会えば変わらず優しい。
変わらず甘く、抱き寄せてくれる。
「俺だけ見てろよ」なんて、冗談まじりに言ってくるときだってある。
ねえ、それって「私」に向けられた言葉なの?
それとも、誰にでも同じように言ってるの?
疑う自分が嫌で信じようとする。
けれど、信じれば信じるほど
「なんで返事はくれないの?」
「なんで私の呟きには反応してくれないの?」
そんな小さな棘が、心の奥で静かに刺さっていく。
私はレンに夢中だった。
でも、彼の中に私は「その他大勢」なのかもしれない。
既読スルーされたDMを何度も読み返しては
画面の向こうの彼を想像する。
今、誰かと会ってるのかな。
楽しそうに笑ってるのかな。
そんなことばかり考えて苦しくなる。
回遊もした。
「他のセラピストと会えば、気持ちが軽くなるかもしれない」
そんな風に思ったこともある。
でも、違った。
誰と会っても、レンを越えられなかった。
施術も、会話も、距離感も
全部レンと比べてしまって、ため息しか出なかった。
私は、誰よりもレンに触れられたかった。
誰よりも、レンに「特別だ」と言ってほしかった。
けれどその願いは、まるで乾いた飴玉のように
甘いけれど、どこか満たされないまま消えていった。
それでも、会ってしまう。
会えばまた、身体の奥に染み込んでしまう。
私はもう、知ってしまっている。
この矛盾すら愛おしいと、錯覚してしまうほどに
彼の施術に、声に、仕草に、すべてに中毒になっていることを。
「レン、また来るね」
そう言った私に、彼は今日も変わらない笑顔を向けた。
それだけで、また私は延命されてしまう。
みゆうの写メ日記
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【抱かれても、抱きしめられない】連続女風小説2/7みゆう