『谷川俊太郎の33の質問』という一風変わった本を最近読みました。
有名な詩人・谷川俊太郎が、彼の友人たち(音楽家や文芸関係の著名人)に対して、33個の質問をする、という対談形式の本です。
まず第一に、この本の面白さは谷川俊太郎が考えた「質問の秀逸さ」にあります。
事前に用意されたその「33の質問」なのですが、これが非常に面白い。
一見すると、一つひとつが突拍子もない質問のように思えますが、いざその質問に答えようとすると、回答者の本質的な部分が具体的な言葉になって現れてくるのです…!
例えばこれ。
『質問②. 自信をもって扱える道具をひとつあげて下さい。』
この質問は、具体的かつ本質的な問いだと思います。「自信をもって扱える道具」、自分の人生の大半を何に費やしてきたかが分かる質問です。
しかもそれだけじゃない、その人の心構えや性格までもあらわにしてしまう質問なんです。
例えば仮に、ピアニストの方にこの質問をぶつけたとしましょう。これは僕の想像ですが。
「自信をもって扱える道具をひとつあげて下さい。」
『うーん、包丁とか、ですかね?』
「ほう!それはどうしてですか?」
『私はよく料理をするので。料理をしている時は頭を空っぽにできるので好きなんです。なので包丁かな。』
「なるほど、僕はてっきり、ピアノ、と答えられるのかと思っていました。」
『うーん、たしかに私はピアニストですけれど、、。私ね、ピアノには、ピアノ本来の力、のようなものがあると思っているんです。でも私はまだピアノの底力を引き出してあげられるような、そんな演奏ができている自信がないんです。だから、そんな私がピアノを道具として扱える、というのは、なんだか烏滸がましい気がして。』
仮にこのような対話になったとします。
一つの質問から、その人の人柄や本質、大切にしていることなど、あらゆることが分かってしまいます!
ピアノに対する謙虚さ、思考の深さ、どれだけピアノと向き合っているのか。様々なことが見て取れます。
ここからさらなる深掘りの質問をしていくことも可能になってきます。
例えば、
・「ピアノ本来の力」とは、どういったものなのでしょうか?
・「まだピアノの底力を引き出せていない」とご自身で感じられた、何かきっかけや、体験があったのでしょうか?
・あなたのピアノに対する謙虚さや向き合う姿勢は、ファンを惹きつけている魅力の一つだと思います。ピアノを始めた頃から、そのようにピアノと向き合われていたのでしょうか?それとも何か向き合い方が変わるようなターニングポイントがあったのでしょうか?
などなど、さらなる深掘りに繋げられるようなワードを引き出せている、という点で、最初の問いは非常に秀逸だということになります。
他にも、面白い質問があります。
質問㉑. 素足で歩くとしたら、以下のどの上がもっとも快いと思いますか?大理石、牧草地、毛皮、木の床、ぬかるみ、畳、砂丘。
これも具体的かつ本質的な質問です。
その人が何に対して心地よさを感じるのか、あえて具体的な選択肢を出すことで答えやすくしています。
その上で、理由を問えば、その人のルーツが見えてくるかもしれません。
もしくは、どのような皮膚感覚を持っているのか、普段は言語化しないようなことを言語化する試みになるので、答えている当人でも、意識したことがないような潜在的なものが浮かびあがってくる可能性もあるのです。
対話の中で、新しい自分を発見できる。建設的な対話のきっかけになる、素晴らしい問いです。
などなど、紹介してみましたが、何よりも面白いと感じたのは、谷川俊太郎自身が、この33の質問を「お遊び」と評しているところです。
お遊びにしては深すぎます…!
以上、最近読んで感動した本の話でした!
皆さんの「自信をもって扱える道具」は何でしたか?
山田 えいとの写メ日記
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No.38 文字と言葉山田 えいと